2011年12月30日金曜日

2011年が終わります

2011年は、多くの人に出会い、そして助けられた一年でした。
心より、感謝申し上げます。
吉田書店として4月にスタートしたわけでしたが、お陰様で2冊の本を世に送り出すことが出来ました。そして、3冊目『現代ドイツの政党政治の変容』は、1月10日には配本予定です。

昨29日を「仕事納め」と位置づけ、残務の整理をしながら、狭い事務所のデスクでこの1年をあれこれ振り返っておりました。
おそらく、今年ほど多くの人に出会った一年はありません。何人の方々と名刺交換をさせて戴いたか……。皆さまと交わした会話の一つ一つが財産です。
来年は、どんな方々とお会いできるか、今から楽しみです。
そんな希望を持ちながら、ノートパソコンとゲラを鞄に詰め込み、事務所にしばしのお別れをしてまいりました。
30日から、私の実家(山形)と妻の実家(福島)へ滞在します。
いま、このブログは、雪深い山形の実家で書いたところです。
来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2011年12月16日金曜日

『大学受験必修 物理入門』と『福島の原発事故をめぐって』の間

3.11原発事故を受けて、様々な“原発本”が出版されている。
その中でも、『福島の原発事故をめぐって』は書評などでも取り上げられ、多くの人が手に取った本ではなかろうか。(もちろん、私もその一人)
著者の山本義隆氏は、誰がなんと言おうと、私にとっては、「山本先生」なのである。
駿台予備学校で1年間にわたって物理の授業を聴いた。物理の面白さと美しさと難しさを再認識させてくれた先生である。「紙と鉛筆を持ってひたすら手を動かして計算をせい」と、つねづね口にしていた姿が昨日のように思い出される。
「科学史家」、そして「元東大全共闘議長」「学生運動の闘士」…などといった枕詞よりも、私にとっては物理の先生だ。

で、その山本先生の授業を1年間聴くに際し、常に手元においていたのが『物理入門』である。(大学に合格できたのもこの本のお蔭かも。)
大学入学後も、この本はずっと手元に置き続けている。『福島の原発……』と並べ、久々にページを手繰ってみた。
その本の最終頁には、こうある。
(「原子核について」という節が最終節なのである。)
(物理の授業は、力学から始まり、熱学、波動、電磁気学などと進み、最後は、現代物理を学び、原子核で閉じる、というのが一般的――今もそうではないかと思う)

「……水素爆弾や原子爆弾の非人間性はいうまでもないが、原子炉も、一度事故が起これば放射性物質を広範囲にまき散らし、その危険性は、その及ぶ規模と期間において他の事故とは比較にならないほど大きい。
のみならず、原子炉は質量をエネルギーに変えていると通常いわれているが、正しくは、結合エネルギー(質量欠損)のわずかな差をエネルギーに変えているのであり、質量数(核子数)自体は保存するので、エネルギーを取り出しても核子の総数は変わらず、それらが放射性原子核として残され、原子炉を運転すればするほど危険な放射性廃棄物が生み出され、そのつけを子々孫々に残すことになる」

受験参考書の本文が、こう締めくくられているのだ!

私が手元に持っているのは、1991年2月の初版9刷。改訂を重ねて今も駿台生には必携であろう最新版もこの部分は不変であった。

山本先生は、ずっと言い続けてきたのだ。予備校の教壇から、未来の原子力エリートに対しても伝え続けていた。
『福島の原発……』を一気に読み終えたが、その語り口は静かであるからこそ、深く考えさせられるものがある。『物理入門』と何ら変わりはない。
手元にあるこの2冊の間に、何ら矛盾も齟齬もない!

表紙を開いた見返しに、山本先生からいただいたサインが残っている。
「吉田真也兄 著者 山本義隆 一九九二年一月三一日」
このサインの入った『物理入門』をお守り代わりにして受験会場に向かった日から、間もなく二〇年が経つ。

2011年12月7日水曜日

『現代ドイツ政党政治の変容』が1月上旬刊行!

吉田書店の3冊目が、2012年の年明け早々に刊行する運びとなった。今日7日に校了。
現代ドイツ政治がご専門の小野一先生による『現代ドイツ政党政治の変容――社会民主党、緑の党、左翼党の挑戦』である。

“左翼”や“左派”といった言葉に対する考えは人それぞれかもしれない。そして、日本において、政党を右と左に分けることなど、もはや無理なのかもしれない。
しかし、ドイツにおいては、少なくとも、左派ということで、社会民主党(SPD)、緑の党、左翼党が存在する。

本書は、それら3党を軸に、近年のドイツで進行する政治的再編成を鳥瞰することからスタートする。そして、2010年1月に誕生した「連体的近代のための機構」という左派の超党派シンクタンクを紹介。このシンクタンクの動きをつぶさに見ると、現代政治への問い直しを迫る多くの問題提起が含まれていることに気づくのである。
エネルギー政策を例に取れば、原発を巡っても、各党はつねに議論をし続ける。そうした研鑚が、3.11後の素早い対応の根底にあるのだ。カバーには、ベルリンでの反原発デモの写真を使ったが、これは、09年の出来事なのである。3.11フクシマ後に、急に思い立ったデモなどではない……。
また、ベーシック・インカムについても一章が割かれた。多義的な概念を、今一度解きほぐすために、過去の議論を整理いただいている。
本書は、「ドイツ政治の研究者のみならず、実線活動に携わっている人、そして世界と日本のあり方を模索するすべての人に読んでもらえたら幸い」(あとがきより)という、著者の願いが随所に詰まっている。

 小野先生は、福井県の敦賀で育ったという。敦賀といえば、原発の街……。
10ページにわたる、ちょっと長めの、著者による「あとがき」のサブタイトルは「青い海を見に行こう」。本書を手にしたら、「あとがき」からお読みいただくのもいいかもしれない。