2011年5月31日火曜日

『エリートのつくり方』改訂版、刊行決定余話

吉田書店のHP「近刊案内」で、具体的な本を紹介できるようになったこと、まずは著者の方々に御礼申し上げたい。
http://www.yoshidapublishing.com/books.html

『指導者はこうして育つ』という仮題のもと、今秋の刊行を目指している本は、ちくま新書として、1996年に『エリートのつくり方』という書名で刊行されたものの改訂版、という位置づけである。
この本は、私が学生時代に手にし、それ以来、何度も(今の住まいは、10回目!)引っ越しながらつねに書棚に鎮座し続けた1冊だ(新書という形態から、ついついあちこちに置いてきぼりになるはずなのに)。
これ一冊でフランスの教育がどんなものか、手に取るようにわかるのである。
私がこれまで会った(数少ないが)フランス人の多弁さの理由ももしかしたらこうした教育の“成果”かもしれない、と思うのである。
ミッテラン、シラク、バラデュール、ド・ビルパン……といった政治家と此方の政治家の面々を比較すると、誰もが思うに違いない。何かが違う、と(「何かが」違うのである)。
彼らの思考、行動の根っこには、やはり、フランス独特の教育(内容、システム)が影響しているのではないだろうか。この本は、そうした思いを一層強くさせてくれる。
そして、「哲学」と「数学」の持つ意味を再考するきっかけになるのではないだろうか。
私たちが、書店で目にする「・・・でわかる哲学」や「・・・大学への数学」などがすべてではないのだ!
詳しい内容については、後日、HPなどでお伝えしていきたいと思う。

ところで、この本の著者、柏倉康夫さんは、私にとっては学生時代以来の憧れの人。学生時代にジャーナリストを目指し(もちろんNHKも受験した!)、フランス語を第2外国語として選択し(トゥールに1か月滞在したりしたものの成果ゼロ!)私には、フランス語を自在に操る「柏倉解説委員」の姿は雲の上の人のように映っていた。
その後、京都大学、放送大学へ移られ、「文学者」としてマラルメ研究などでご活躍されていることは、メディアを通して存じ上げるのみ。ますます遠い「雲の上の人」であり続けた。
立ち上げたばかりの社からの復刊をお願いできるだろうか、一面識もない者にその資格はあるだろうか……。そんな悩み、不安とともに、お手紙を差し上げたのが、GW前であった(そう、ご住所すら存じ上げなかった!)。
柏倉先生は、そんな私の申し出を快諾下さったのである。初めてお目にかからせていただいたときは、嬉しさと緊張でいっぱいだった。
現在、ご多忙の中、全体を見直しながら加筆、訂正いただいている。元の新書版とは一味もふた味も異なった1冊に仕上げたい。

ちなみに、このちくま新書のベースにもなっている「ETV特集 パリ・エコール・ノルマルの二百年」(94年11月放送)は、当然リアルタイムで観ている。もちろん、ビデオテープに撮っている(ついこの間、苦労してDVDにダビング済み)。
本当なら、この映像とともに本書を読んでいただきたいぐらいである。

2011年5月27日金曜日

本を出します(『指導者はこうして育つ』)

2冊目の近刊案内として『指導者はこうして育つ――フランスの高等教育~グラン・ゼコール~』についてご紹介したい。
この本は、柏倉康夫著『エリートの育て方――グランド・ゼコールの社会学』(ちくま新書、1996年)の改訂版、という位置づけである。
著者の柏倉康夫先生は、放送大学名誉教授で、元NHKの記者、パリ支局長、解説主幹などを務めたかただ。場合によっては、マラルメ研究の第一人者、という紹介がいいのだろうか。筑摩書房、左右社などから多数の著書が出ている。
学生時代にジャーナリストを目指していた私にとっては、やはりパリ特派員としての印象が強い。この本も、当時NHK解説主幹としてご活躍中に著されたものだ。
さて、この本のどこに魅力があるのか。
なんといっても、私たち日本人が直面する教育問題、政治問題を解く手がかりを与えてくれるのである。
ヨーロッパから学ぶものは何もない、というのはまだ早い。まずは彼方の真の姿を覗いてみようではないか。
例えば、大学入試だ。ちょうど、震災前には京大入試のカンニング事件などがマスコミを賑わしていたが、もし、以下のような入試問題だとしたら、カンニングなどあり得ただろうか?

「幻想のない情熱というのはありうるか?」
制限時間4時間で、論文で答えよ。……

私など、頭を抱え込んでしまう。
フランスの大学入試(バカロレア)では、文科、理科を問わず、哲学を受験しなければならないらしいのだ。
その問題が、例えば上記のようなもの。
もちろん、そのための参考書はある。虎の巻だってある。
しかし、此方、日本の受験と比べれば、遥かに意義ある問題に思えてしまう。

この本は、単にフランスの教育を紹介するためのものではない。私たちの日本の将来を考えるために寄与するはずだ。
「リーダー不在の日本」。そんな声を誰もが評論家のように叫ぶ。だったら、リーダーたる人物を社会全体で育てようではないか。ぜひ、その糸口を見つけてほしいとの願いを込めて、この一冊を送り出したい。

2011年5月19日木曜日

本を出します(『グラッドストン伝』)

「出版社を立ち上げた」と言っても、やはり本を出さなければ、世間には認知してもらえない。何ら具体を持たないままの4月1日のスタートであったが、ようやく、近刊案内として、お知らせできることになったのは、誠に嬉しい。
今日は、そのうちの1冊、『グラッドストン伝――政治における使命感』(神川信彦先生・著、君塚直隆先生・解題)についてご紹介。
この本は、1967(昭和42)年に潮出版社から出され、その年の毎日出版文化賞を受賞するなど、各方面から高い評価を得た(と確信できます)。最初は、上下2巻本として、その後1977(昭和52)年には、潮選書として改版されている(今回は後者を底本とさせていただくつもりである)。
合計どれだけの数が市場に出回ったのかわからないが、今では絶版状態になっており、私自身も、インターネット古書店で購入したぐらいだ。
このたび、復刊するに当たっては、ご遺族のかたにまずご了解をいただいた。信彦先生の奥様はじめご家族の方々は、まだ立ち上げたばかりの社からの出版にも関わらず快くご理解下さった。改めて感謝するとともに、いい本に仕上げることをここに改めてお約束したい。
そして、潮出版社からも小社からの復刊を了承いただいたことは、形式的な点とはいえ(例えば、他の老舗出版社がすでに検討していた、ということもあり得たわけで)嬉しかった。

ところで、「復刊」といっても、いろいろなやり方があるだろうが、私としては、“リニューアル”出版、と位置付けたい。
まず、紙面も組み直したい(底本は2段組みだが、文字の大きさもかえて1段組みにし、読みやすくしたい)。
そして、巻末には、イギリス近代政治史研究の第一人者である君塚直隆先生に「解題」という形で、ご執筆頂けることとなった。
なんといっても、この2点目は意義が大きい。
これまで何の面識もなかった者からの、しかもまだまだスタートしたばかりの出版社からの、突然のお願いにもかかわらず、君塚先生は、復刊の意義もお認め下さり、「解題」のご執筆をお引き受け下さった。深く御礼申し上げるばかりだ。
先生のこれまでの多数の業績のなかに、本書の「解題」を含めていただけることになるのは、夢のような思いだ。

いずれにしても、編集作業をしっかりと行い、出版社の名に恥じぬ本作りを進めていきたいと肝に銘じている。

2011年5月10日火曜日

独立するということ(4)

早いもので5月。独立してから1か月が過ぎた。少しずつ具体の仕事(つまり本作り)に取り掛かり始めた。原稿を読んだり、著者の先生方とお会いしたり、電話したり、メールのやり取りをしたり…、といった当たり前の仕事をしていることが嬉しい。そう、ようやく一歩前進した気分である。

朝起きてから夜布団に入るまで、どんな行動も仕事と関係して思考している、と言ったら大げさだろうか(仕事をしている、という意味ではない。ただ、頭のどこかで社のことを考えている、という意味です)。
今自分がやっていることが、社(といってももちろん社員は私一人だが)の全体の流れでどこに位置するのか、今やるべきことはこれでいいのか…etc.
常に自分を鳥瞰しているもう一人の自分がいるのだ。
私は、公務員時代も出版社勤務時代も、そうありたいと意識してきたつもりではいるが、やはり、こうして独立すると、組織の一員である時とは緊張感が違うな、と実感する。
時間の使い方、感じ方が全く異なるのである。

そして、独立してつくづく実感することをもう一つ。
仕事で多くの方々と接するが、その場その場で自分の責任で発言でき、相手にもそう受け取ってもらえること、これは何よりの違いかもしれない。